物事を確認するための基本動作というものがある。記者の場合、事実を探究することが必要条件となるので、事実関係の確定は、重要な前提となる。例えば現在、SNS上などで過剰に発信されている埼玉クルド人の件だが、私はもともと外国人問題を主要テーマとした記者だったが、その後、さまざまな事情でこの分野から遠ざかった。今回あるきっかけで取材に入らざるをえなくなったが、この問題を取材するためにまずやることは、全体状況を把握することだった。そのためには対立する主張がある場合、双方の見解を聞くなり、あるいはすでに発表されている双方の意見を確認する必要がある。クルド人が偽装難民であり日本人に迷惑をかけていると声高に発信する人間は実はそれほど多くない。川口市の自民党市議や石井孝明という名のジャーナリスト、さらに産経新聞社会部くらいだ。これらは本人に直接確認せずとも多くの情報をすでに発信しているので、基本的にはそれらを読めば概要はわかる。一方でクルド人が川口市で30年以上暮らし、2年前の入管法改正時に難民認定のあり方をめぐって声をあげた(記者会見をした)ことで「物言う外国人」として注目されるようになり、袋叩きにあっているのがいまの現状という見方を示したのはジャーナリストの安田浩一氏だ。同氏に直接取材したわけではないが、同氏がこの問題で講演するのを議員会館と川口市で私は2度聞いている。この問題でもっとも深く取材している人物の認識を確認することは、記者としての「基本動作」の前提ともいえる。実は、これらの事実確認の方法は、記者も、学者も、政治家も基本的には同じだ。ジャーナリズムも、アカデミズムも、政治も、すべて正しい「事実認識」のもとでしか、正確な記事、正確な論文、正しい政策は構築できない。
その上で「現地」を確認し、さらなる取材に備える。実際はこの程度の予備取材レベルであっても、多くの物事が見えてくる。参議院選挙が近いので特定政党のマイナスになることはここでは敢えて書かないが、この基本動作がきちんと行われているかどうかは極めて重要である。現在の日本では、物価高で世の中の暮らしがつらく、大衆はそのはけ口を求めている状態だが、そこに一部政党が「外国人差別」をもちこみ、誘導して得票しようとしている姿は明白だ。政策は「歪曲されていない事実」に基づいて構築されなければならない。