門田ノンフィクションの虚構 3

この連載を始めてまだ3回目にすぎないが、このシリーズはとめどもなく続けられそうな気がする。言い出したら止まらないという材料に事欠かないからだ。とりあえず昨日のつづきとなるが、確かに門田よりも前に「島田知事らによって20万人の沖縄の住民を救われた」趣旨を書いた先行ノンフィクションは存在する。ただしこれは史実を厳密に踏まえない、その著者特有の不正確な書き方である。要するに門田隆将の描いたノンフィクションが、実際は事実検証に基づくものではなく、他人の「コピペ・ノンフィクション」にすぎないことを裏づける証拠ともいえる。実際に島田知事が自ら立案し、実行して20万人を疎開させた事実が存在するのであれば、前述の記述は成り立つが、島田知事が沖縄に赴任したのは1月末、さらに3月末にはすでに「鉄の暴風」と形容される沖縄戦が始まる。わずか2カ月間で疎開させた人数が20万人に至るわけがない。さらにその疎開方針は、島田知事が自ら立案したものですらない。上から降りてきた行政方針を、知事として実行したにすぎない。行政官として当然の仕事を行ったことを、その個人のお陰で住民が救われたなどと描くのは、私は過度な神格化の作業にほかならないと考える。これがもし逆だったらどうなるだろうか。仮に南京大虐殺の犠牲者数だったら、彼はこんな水増しの書き方に簡単に乗っただろうか。私は絶対にそんなことはなかったと考える。

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