自民党新藤義孝衆議院議員の地元・川口市で起きているある外国人をめぐる多くの報道は、地元の一部住民と外国人の軋轢を背景にしている。地元で外国人と融和関係をつくろうといったんは努力した地元自民党市議が、途中でその努力を放棄し、一転、外国人ヘイト活動に邁進した行動が現在への遠因となった。その市議、奥富精一氏は、その外国人を「敵」とみなし、この外国人に不満をもつ日本人を糾合し、世論を喚起。産経新聞を味方につけたことで、全国規模で知られる問題となった。慌てたのは何もしていないと突き上げられた地元代議士の新藤氏だ。もともとタカ派代議士として知られるが、自身が理事長として運営する「こども園」には多くのこの外国人子弟らが通う手前、大がかりな外国人弾圧には気乗りしなかったはずだ。だが今回の参院選ではそうも言っていられなくなった。自民党の小野寺政調会長を手引きして現地入りさせ、地元で自民党中心のヒアリングを開催したのが5月下旬。自民党政調全体を動かし、「不法滞在者セロプラン」を公明党を巻き込み策定し、入管庁にやりたい放題の“お墨付き”を手渡した。
だが「不法滞在者」という言葉自体、本来は国連基準からすれば避けるべきもので、日本でも従来「非正規滞在」とするべきものだ。さらにエビデンスとして、日本で非正規滞在者(不法滞在者)が増えている現状はなく、さらに外国人犯罪も比率として増加している実態はない。要するに「不法滞在者ゼロプラン」を実施する『理由』がそもそも存在しなかった。それでもこの政策を持ち出したのは、明らかに自民・公明による選挙対策という自己保身の利害の一致によるものである。その結果、何が起きているかというと、理不尽な強制送還の連発だ。すでにクルド人関係者をはじめ強制送還の命令が下っており、家族崩壊を恐れるクルド人家族をはじめ多くの外国人が恐怖におののいている。
20年以上日本に滞在し、日本人女性と結婚して10年すぎるあるスリランカ人男性は、通常なら「日本人配偶者」という安定的なビザが発給されるはずだが、日本の入管庁はこうした事案にも公正に対応せず、本人を「非正規滞在」状態におき続けている。「不法滞在者ゼロプラン」からすれば、こうした外国人も送還の対象に含まれ、本人だけでなく、日本人の家族も不安にかられているのが実情だ。この場合、「ルールを守っていない」のは不法滞在者の側ではなく、入管庁なのだ。こうした視点を公明党などは完全に欠いている。結論するにこの計画は、日本社会や経済を支える外国籍住民を含む家族たちを恐怖のどん底に陥れる「希望ゼロプラン」そのものだ。私からすると、このような行為に公明党が加担しているという事実は重大である。
フランスでは、10年以上の非正規滞在者(不法滞在者)または子どもが学校に5年以上就学している場合、人道的見地から家族全員に在留資格を与えるという。日本でも過去に似たような政策が自民党政権下で行われた経緯もあるが、いまの政府はそうした人道性のカケラもないことを、自分たちの選挙目的で行っている。
先日は14歳でトルコから来日し、川口市内の公立小学校から就学をスタートし、大人になって家族を形成(3人の子どものうち最年長は12歳で5年以上日本の学校に就学)、仕事でも地元における解体業の中核となっていた来日20年となる男性が、いきなり強制送還された。ふつうは同じことをするにしても、事前に退去強制を通知し、荷物をまとめさせるという当然の手続きを踏むが、彼の場合は見せしめの目的もあったのか、一切、考慮なしだった。これも「家族持ち」は人道的に例外とする基準からすれば、非道な仕打ちそのものといえる。
日本の入管庁は今回の措置の基準(強制送還をする者としない者との線引き)をきちんと示すべきだ。公明党はむしろそうしたことを厳密に要求する側であるべきであって、唯々諾々と権力側に擦り寄り、外国人を不安に陥れるような行動を取るべきでない。そこにあるのは外国人政策への無知と、外国人本人の立場に同じ人間として自分の身を移し替えて考える心情の欠落だ。
日本も、フランスの基準と同様に、10年以上の日本滞在、さらに子どもが5年以上就学している場合は、条件なしに家族全員に在留資格を与え、日本で安定的に暮らせる「基礎」をつくることこそが、政治の役割と思える(刑法犯罪確定者を除く)。自らの選挙対策のため、外国人を足蹴にして自己保身を図った「不法滞在者ゼロプラン」は、出入国管理行政における“天下の愚策”であり、後世までその愚策ぶりが喧伝されると思う。