厳密にはまだ首相に就任する前の自民党総裁の時期だったが、公明党大会に出席して来賓あいさつした石破茂首相は、自公政権が3年あまり野に下った時代の話に言及した。「つらいとき、悲しいとき、苦しいときに一緒にいる人はほとんどいない」。人間は好調なときには周りに人は集まるが、逆境にあるときはそうではない。石破氏はその比率を「10分の1もいない」と表現した。その具体的な数字が、自身のこれまでの実体験に基づく半生の言葉として聞いている者の胸に響いた。話の趣旨はそうした時代でも共に苦難をすごした政権であるから、「困っている人、悲しむ人たちのそばにいる自公政権でありたい」とスムーズな論理で訴えかけた。政治の原点を彷彿させる言葉だった。それだけに、聴衆の琴線に触れた。政治の原点が弱者、少数者に寄り添う政治であるのなら、ジャーナリズムの原点も権力の側でなく、少数の側にあることは私も先輩記者から叩きこまれた大原則だ。石破氏は大きな挫折を経験してきた。その点ではあの安倍元首相も同様だったが、2人の政治スタンスは私からみると対極にある。石破首相が昨日発表した「5つの守る」の第1に据えられた「ルールを守る政治」は、私には安倍政治へのアンチテーゼに映る。政治にもっとも求められる要素が「公正」であり、そのことを国民住民にストレートに訴えようとする同首相の姿勢を私は評価する。