日本人の姓は地域的な背景がからんでいて興味深い。私が育った九州の佐賀県東部近辺でいうと、「天本」(あまもと)という姓が珍しくないが、東京に出てきてその名字の人に出会ったことが一度もない。さらに九州出身者とすぐわかる特徴的な姓は「古賀」だ。ルーツをたどると北部九州にあたることはほぼ間違いなく、自民党政治家の有力者や柔道の有名選手がいたことで全国的に知られるようになった。あと似たような姓として「緒方」がある。一方、私が興味深く感じてきたのはやはり沖縄由来の姓だ。沖縄発祥の姓はたくさんある。空手の流派でいうと沖縄3大流派の一つ、上地(うえち)流というのがあるが、東京でも上地さんという人に出会うことがときどきある。さらに比嘉(ひが)も沖縄由来の姓だ。沖縄独自の姓は、土地の名称と重なることが多い。そのほか船越や前田を冨名腰、真栄田と3文字にしたのは、かつて本土の人間と区別化させるためだったという話がある。沖縄空手を日本本土に最初に伝えた船越義珍も、当初は冨名腰で本を出していた。ともあれ親から譲り受けた姓は、その人の独自の宝のようなものだ。その名前を変えたくないという結婚を志望する若い男女が、それが理由で結婚できないというこの国の法制度は、やはり時代に完全に取り残された「遺物」そのものに映る。現代において日本会議(靖國史観)の思想に影響されていては、日本は再び1945年の敗戦を繰り返しかねない。