『裁判官が日本を滅ぼす』という裁判官をこき下ろす作品で作家デビューを果たした門田隆将が、このほど裁判所に“頼った”ことが明らかになった。きっかけは2018年。新進気鋭の映画プロデューサーの持ちかけから自身のノンフィクション作品『汝、ふたつの故国に殉ず』の映画化の話が持ち上がり、本人はGOサインを出した。旧知の櫻井よしこらにも呼びかけ、1000万円の当初資金を調達した。その上で門田はプロデューサー兼脚本家でもあるその男性に脚本を早く書くように執拗に催促し、脚本が脱稿したのが2019年2月のことだったという。その間、門田も同行する形での台湾ロケなどが一部行われた。プロデューサー側がその間の仕事の代価として、とりあえず集まった資金の中から脚本料分の支払いを門田に求めると、門田が拒否したことから話がもつれ始める。奇妙なことは、この紛争を解決するために、「日本を滅ぼす」と主張する裁判官に、門田本人が“頼った”ことだ。訴えは2023年2月に東京地裁に起こされたが、内容は債務不存在確認請求だった。門田側の代理人に就いたのは新潮社の顧問弁護士で週刊新潮時代からの腐れ縁である岡田宰弁護士。先の産経新聞コラム事件で門田が敗訴したときの代理人でもある。この裁判では門田側が先に訴訟を起こし、追って被告側も反訴し、200万円の脚本料などを求める裁判が2023年6月に起こされ、審理は併合されて、これまでウェブ会議方式の弁論準備手続きを中心に進んできた。それがこの4月26日、訴え提起から1年余りをすぎた段階で、「和解」で終結した。奇妙なのはさらに次の事実である。門田側は自ら裁判を起こしながら、肝心の和解内容や、さらに準備書面や書証のほとんどに閲覧制限をかける申立てを行い、裁判所側がそれを認めたことだ。門田側の申立理由は「秘密保持のため」とある。私も多くの裁判記録をこれまで読んできたつもりだが、セクハラ事件などで女性のプライバシーを守るために機微にわたる事実についてマスキングする措置は見てきたが、このような一般の通常裁判で裁判を起こした当事者が、そのほとんどの記録内容を閲覧できなくなるようにする事態は見たことがない。要するに「裁判官が国を滅ぼす」と主張しながら、都合が悪くなると自分はその裁判官にすがり、最後はその記録すら国民に見えなくしてしまう。どこまでも独りよがりな精神性が、この裁判には凝縮されているように思う。