東村山の構図10 罪を償わず逃げる

もう10年ほど前のことと記憶するが、私は朝木明代が万引き事件を起こした東村山市内の洋品店関係者に取材をしたことがある。洋品店は明確な被害者であったにもかかわらず、あべこべに無実を主張する矢野穂積らの行動によって複数の訴訟を抱えていることに困っている様子だった。なにより驚いたのは、この取材によって何か問題が生じた場合のために「一切の責任をとります」と一筆書かされたことだ。私の取材経験の中でこうしたことはほとんどない。被害者をここまで追い詰めた矢野穂積・朝木直子らの行動の、これは裏返しの姿だった。

洋品店関係者の認識は次のようなものだった。明代が転落死した数日後には検察庁に事情聴取され、早晩、万引き事件は刑事法的に確定・解決する予定だった。そうすればそれまでさんざん「嘘つき」扱いされてきた自分たちの告発行為が、ようやく市民にも認めてもらえるという希望的観測があった。だがそのかすかな願望が、朝木明代の自死によって奪われる結果となった。「生きて罪を償ってほしかった」――。洋品店関係者の心からの叫びに聞こえた。

話は変わるが、つい最近も、東京都立大学の教員を刃物で傷つけ、広範囲な捜査網が敷かれていたものの、犯人と目される人物が自殺していたと報じられた。これも構図的にはまったく同じである。罪を起こしながら、自らその罪を償うことをせず、自死とはいえそこから都合よく逃げてしまう。残されるのは罪のない被害者だ。

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