昔、政策に詳しい橋本龍太郎という総理がいた。その政策理解度は中央官庁の課長を凌ぐといわれ、その意味で役人から嫌がられる首相との評価があった。今の自民党総裁選を見ていると、高市早苗はさながら橋本龍太郎の女性版である。自民党政調会長を3回も経験した蓄積はそれなりのものだろう。ただし、日本のトップである総理大臣に求められる本質的な「資質」はそこではない。むしろ偏らず、日本の将来にとって本当に必要な政策を取捨選択する能力にほかならない。本人は首相になっても靖國参拝することを公言する。靖国は日本の戦没者全員を弔う公平な慰霊の場所ではなく、戦争遂行のために兵隊のみを扱う「国策神社」であり、より本質的にいえば戦没者を区別するための「差別神社」だ。多くの懸念をかかえた施設であることは明らかだが、そこに前のめりする姿は、異様極まりない。むしろ首相はそのようなイデオロギーに偏らないことこそが最大の要件だ。また同人の総裁選出馬に際しての推薦人の過半数が「裏金議員」とされる。裏金問題の清算を求められる自民党の次期総裁が、裏金議員の力によって支えられた傀儡の人物である構図は異常極まりない。それは政治倫理の“倒錯”した姿であり、日本を間違った道に進める「いつか来た道」の繰り返しにつながる。この人物に日本の未来を託すことは、日本を「狂信の国」に戻すことになりかねないと認識すべきだ。