この国の歴史修正主義が始まったきっかけは1995年の村山談話という説がある。日本の過去の戦争の罪を認めた首相談話だったが、それが奇縁で日本会議や新しい歴史教科書をつくる会などが結成された。その後もこの歴史観を踏襲する2度にわたる安倍政権の誕生や、それらを「商売」にした右派論壇誌の誕生なども動きに拍車をかけた。仮にこの30年近くを俯瞰した場合、大きな推進力となったのはやはり安倍政治の存在である。この国の歴史修正主義の本質は、天皇の軍隊であった旧日本軍の罪責(慰安婦問題、南京虐殺、731部隊、沖縄の民衆を守らなかった旧日本軍など)をいずれも否定するか矮小化する目的のもので、特に安倍政権は慰安婦問題の改ざんに率先して取り組んだ“異様の政権”として特筆される。だがその流れが断ち切られたのは、皮肉なことにおよそ2年前の安倍氏の暗殺事件がきっかけとなった。いずれにせよ、歴史や歴史観は、事実に基づいて形成されなければ話にならない。こうあってほしいという願望がまじっているようでは、それは「公正なもの」とはいえないからである。