人間の顔をみて相がよいといわれればそれは褒め言葉だ。人の顔に相、つまり表情の変化があるのに対し、時代にもそのときの表情、顔がある。あるいは傾向といってもよいだろう。2021年現在の日本の時代相を端的に表現すると、私はキーワードとして「憎悪」「差別」「分断」などが思い浮かぶ。社会の表情は明らかに劣化しているからだ。それらを煽るための多数の書籍が売れる時代だ。それらはある種の相乗効果を伴い、ネット上でも広く拡散され、世論が形成されてきた。こうした時代相のきっかけ、変わり始めた基点がいつかははっきり言えないものの、1990年代の後半から2000年代の前半であることは間違いないだろう。それが安倍政権における2度の政治状況によって大きく「加速化」されたというのは動かない見方だ。過去の歴史の事実が真実かどうかをお構いなしにするかのような風潮がはびこり、「反知性主義」の時代が到来した。このような間違った時代相を形成した要因の大きなものが政治であったことは論を待たない。政治にはどのような将来を形成するのかという理念とビジョンが求められる。その認識があまりにも欠落していたということは言えると思う。