テレビすらなかった「スペインかぜ」時代

今から100年ほど前、現在と似たようなパンデミックが世界を襲った。日本でも30万から40万の人が亡くなったとされているから、今の新型コロナウイルスの国内死者数から考えればケタが一つ違う。世界でも5000万から1億人の人が亡くなったとされているから、これもケタが1つ以上違う。当時は大正時代だった。今と何が一番異なっていたかといえば、それはメディア環境であったと考えられる。現代のパンデミックの状況は映像を使ってリアルタイムに各個人に届く。それはテレビなどの大メディアだけでなく、インターネットを通じた個人発の映像も含まれる。だが100年前はどうであったか。テレビそのものが存在しない。映画も一般には普及していない。要するに、当時の人たちには瓦版に近いような新聞しかなかった。当時生きた人々の疫病の認識手段は、身近な人びとの感染・死亡がもっとも大きなものであったと思われる。現代は1桁以上少ない被害状況ながら、多くの映像などでその悲惨さが伝えられる。当時と比べれば明らかな「過剰報道」であり、その影響の結果が、現在の生活実態に結びついているといえようか。どちらがいいとは一概にはいえないはずだ。だが現代人が心すべきは、過剰な情報を日々摂取していることによる影響が、自らの行動や自らの所属する社会の方向を決定づけている面を無視できないことだ。この点はよくよく考えるべきことだと思う。

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