ジャーナリストを名乗る者にとって最も大切なことは、事実を正確に伝えることだ。さらに自分の論評を加える場合は、事実と論評の違いをわかるように記述することだ。事実を把握するためには、ジャーナリストにとって不可欠となる基本動作が存在する。まず「現場」を踏むということだ。さらに対立する関係が取材対象となる場合、双方に直接確認する必要が生じる。最近は電話で済ます、ひどい場合はネット情報で済ますことも事例によってはあるかもしれないが、基本は当事者に直接会い、自分の五感をフル動員して全体状況の掌握に努めることだ。さらに重要なことは、物事の表面的事象だけでなく、その根底にある本質的事柄をきちんと捉えることが必要になる。文は人なりとはよく言ったもので、記者の書いた文章には記者の姿勢、行った取材のレベルなどがすべて“投影”される。一般読者にはわかりにくい面があるかもしれないが、玄人にはそれらは瞬時に見抜かれるといってよい。昨日の産経新聞の1面コラムで、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が「『南京大虐殺』はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ」と断定的に書いているのをみて、私のX(旧ツイッター)で紹介したところ、意外にもバズってしまい、人口の1%を超える160万人が閲覧したことになっている(8月5日午前7時23分現在)。そこで櫻井氏は「研究者らによって証明済」と書いていたが、そもそもそのような「事実」が存在しない。要するに《妄想》の類いなのである。もともと産経新聞も10年ほど前から似たような社論に“転じた”経緯があるが、要するに事実的根拠に裏づけられた記事ではなく、妄想をまじえた記事でも許されるという方向にカジを切った唯一の全国紙だ。産経新聞にまともな記者がいることは私も仕事を通して現実に知っているが、社の上層部がこのような路線を許したところに、同新聞の廃頽ぶりがある。事実を尊重しないメディアなど、まともな読者が存在する限り、いずれ消えてしまう運命にあることは言うまでもない。