森功著『悪だくみ』を読む

昨年12月に出た本ながら、あまり書評に取り上げられなかったのか本の存在自体を3月まで知らなかった。安倍首相が関わったかどうかが争点となった「加計学園」問題について広く取材して本質を浮き彫りにした調査報道である。著者の経歴は「出版社勤務を経て」となっているが、著者自身は「週刊新潮」の経済畑で活躍した人物で、岡山大学出身の地縁もあるのか、岡山を拠点に学校ビジネスを拡大した加計孝太郎などに関して丹念な周辺取材がなされている。

本書の結論は、権力の私物化は「あった」というものだが、安倍首相と加計の長年の親密な交友関係の数々が具体的に記されており、萩生田(官房副長官)などの安倍をとりまく人間たちの政治とカネにまつわる疑惑が具体的に書かれている。裏付けが付された重要な問題提起と感じる。

本書のタッチは安倍首相や政権をことさらに感情的に批判するようなものではなく、事実をもとにそれを積み上げて結論を導いていくという手法であり、「正道」としてのノンフィクションの手法だ。

この書に対し、例えば元朝日新聞記者ながらいまはワックから本を出している長谷川熙という記者などは本書を指して「自分勝手な推量だらけのいわば力業(ちからわざ)で無理やり安倍『加計』疑惑を作り出そうともがいた一冊」(『偽りの報道』)などと論評しているが、的外れもいいところだ。すでに大政翼賛記者の一人にしか見えない老記者のたわ言にしか響かない。

森功氏は週刊新潮にいた門脇護(現在、門田隆将の筆名)と同時代に同じ編集部に属し、同じころに独立した人物として知られているが、門脇がすでに上記の長谷川記者などと同様に安倍政権の提灯持ち記者の一人になりさがっているのに対し、ジャーナリズムの本道を通している点で好感が持てる。

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