安倍晋三元首相は在任した合計8年8カ月のうち、靖國参拝はわずか1回だった。第1次政権の1年間では参拝できず、右派系の支持者からは猛反発を喰らった。さらに第2次政権でも参拝したのは初期の1回だけだった。毎年参拝していた小泉首相と異なり、安倍は国内外でウルトラファッショと見られていたので、その影響力が甚大であったからだ。別に褒めるわけではないが、これは本人のバランス感覚の賜物である。要するに政権維持を最優先に考え、自らの政治信条を敢えて後方に押しやった姿だ。これと異なると見られるのが今回も総裁選に出馬する予定の高市早苗候補だ。靖國参拝を公言し、バランス感覚はカケラもなさそうに見える。仮に去年の総裁選でこの発言を封印し、さらに最後の演説でポカをしなければこの人が自民党総裁に就任したと私は今も確信しているが、そのようなバランスをとる姿勢は最初から微塵も感じ取れなかった。これが安倍元首相との違いである。昨年段階ならまだ衆参で自公は過半数を維持していたが、今回はそうではない。だれがやっても難しい局面で、このような偏った人間がトップに就任すると、にっちもさっちもいかなくなって国政はさらに停滞するだろう。まず身内の公明党が好意的に協力しない。安倍はそのへんはとても配慮深い性格であったので自公関係はうまく回った面が強かったが、高市本人およびその周辺にそのような配慮深い人物がいるとはとうてい思えない。高市候補を選ぶことは、日本国家が「貧乏くじ」を引くようなものと言っておかなければならない。