文芸の価値

 創価学会の池田第3代会長が執筆した著作・小説『人間革命(全12巻)』が沖縄の地で起稿されて60周年の朝を迎えた。「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」のフレーズで始まるこの小説は、戦後の第2代戸田会長時代の教団の歩みを中心に描かれた時代小説であり、“世界宗教”に発展していく民衆史の記録ともいえる。最初に原稿が書かれた場所である創価学会沖縄本部はいまでは立派な会館となっているが、出張で沖縄に行って近くを通るたびにその感慨を深くしてきた。私はたまたまこの連載小説が新聞に掲載され始めた同じ年の同じ月に九州の片田舎に生まれた。特に9巻、10巻は繰り返し読み返した。

 冒頭の『人間革命』に加え、『新・人間革命』は池田第3代会長就任後の1960年からの同会長の時代史が描かれたものだ。さらに戸田会長が自ら執筆した『人間革命』も別に存在し、3種類を全部合わせると45冊にもなる。これらの大量の著作を創価学会員全員がすべて読んでいるとも限らないが、教団外部の学識者でこれらをきちんと読み込んだ上で論評する姿勢を鮮明にしているのは佐藤優氏くらいだろう。教団を肯定的にせよ批判的にせよ、45冊を読み込んだ上で論評している論者は極めて希少だ。ともあれ「書き残す」という行為がどれだけ意味のあるものか。文字は半永久に残る。その意味で活字の持つ力は永遠である。

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