安倍元首相の一周忌が近くなった。安倍晋三という政治家について、「心酔」する立場と毛嫌いする立場が目立っていて、興味深い社会現象と感じる。本日付の産経「正論」欄に元官邸官僚の人物が安倍首相のもとで「とことんこの人についていく。皆がそう思った」と書いているのは、当時の官邸内部の心情を示すものとして興味深いが、やはり政治は結果で評価される。その一つの指標が、1・26という過去最低の出生率であり、「統計を取り始めた1899年以来、初めて80万人を割った」(本日付日経)という出生数だ。要するにこの国難の危機をもたらしたのは、2012年から2020年までつづいた第2次安倍政権に主に求められるものであり、そこには大きな理由が横たわっている。
一言でいえば、先般も世界で125位に認定された日本のジェンダー・ギャップに求められる。日本政治史に残るであろう明確な歴史修正主義者であり、男系中心思想を根幹とする神道・統一教会の影響を強く受けた安倍元首相は、その思想性のゆえに、選択的夫婦別姓制度の導入や、同性婚の忌避、さらに多くの民族差別を助長する政治的効果をもたらした。これらが少子化問題の改善に至らなかった根本原因の一つであり、現在の内政的な国家的危機を招いた一つの要因と思われる。安倍元首相は対中国という外交的危機を演出し、それに対する対策で政権浮揚を図ったが、内政政策においては根本的な治療を施さなかったということだ。
自民党は最近になって女性国会議員を10年かけて3割に増やすことを打ち出したが、これは一つの危機感の表れである。安倍時代に早く舵を切ることを阻んだのは、安倍氏のもつ歴史観であり、国家観にあった。先般のLGBT問題で限界右翼勢力が女子トイレなどを使って盛んに反対運動を起こしたのも、その根底には日本の国体を毀損されるという危機感にあった。この場合の国体の根本は、男系中心主義をとる天皇制に帰結する。こうした日本国内の閉鎖的な宗教イデオロギーが、現在の日本社会に与えている影響は実は思っている以上に大きい。