昨日付の朝日新聞文化欄の「語る」連載で、元国連事務次長の明石康氏が登場していた。1回目の連載で、93年5月23日について「人生最高の日はいつかと問われたら、私はこの日を選びます」と語っている。自身が国連特別代表として行ったカンボジア総選挙の投票日初日のことだ。この日、30年ぶりくらいの選挙が行われたカンボジアで、民衆は投票のために長い列をつくった。その日のことを同氏は「人生最高の日」と振り返ったわけだ。実は私もこのとき選挙監視団の一員として現地で一つの投票所を見守っていたが、私の場合は感動以前に業務をこなすことだけで精一杯の状態だった。その上で自身の「人生最高の日」はいつなのかを考えた。あえていえば2004年10月29日ということになろうか。
私は2002年12月に日本共産党の不破哲三氏らを批判する『拉致被害者と日本人妻を返せ』という書籍を小出版社から上梓し、同党から民事提訴と刑事告訴をされていた。それらの法的処置について日本共産党はこの日、すべての訴えを取り下げる和解案を呑んだのである。形の上で私が勝訴したというわけではなかったが、一つの政党が書き手である一個人、あるいは一零細出版社を名誉毀損と著作権侵害で訴え、何の取り分もなく、自らすべての訴えを取り下げたのである。実質的には勝訴の結果に思えた。
もともとこの訴訟はいまでいうところのスラップ訴訟(嫌がらせ目的)にすぎなかった。そのため、判決に至れば名誉毀損部分は棄却され、共産党側が敗訴することは目に見えていた。そうした“みじめな景色”を回避したかったのか、同党はそれ以前の段階で訴えを取り下げたのである。私の人生において、この時ほど信仰の力を感じたことはない。あれから18年すぎた。