民主主義と独裁主義の衝突

アメリカの大統領選挙は民主主義がどこまで機能するかを実験したような出来事となった。「虚偽を正当化し、不都合な事実から目を背け、虚構の世界に安住する」(本日付毎日社説)トランプ政治は、この選挙においても明確な証拠もなく、「米国史上最も腐敗した選挙」とのプロパガンダを続け、支持者を煽動した。その結果、選挙後にも関わらず、トランプ陣営には200億円を超える政治資金が集まった。それでもこの国の政治が守られたのは、トランプ氏の意向ではなく、自らの職責の良心に従った人々が多くいたからだ。選挙管理部門の責任者、司法長官、各級の裁判所、国防長官。政府高官の多くが、職責の良心に従い、トランプ本人に更迭される憂き目にあいながらも、自らの信念を貫き通した。さらに裁判所は、事実に基づき審理するという裁判官の職責を果たした。その結果、「アメリカの民主政治は、首の皮一枚で保たれた」と評したのは、国際政治学者の藤原帰一氏である(昨日付朝日夕刊)。昨日付の読売新聞も社説で、「『不正』巡る対立を終わらせよ」と掲げ、本文では「投開票を巡り、勝敗を揺るがすような不正がなかったことは明白だ」と書いている。

事実と関係のない言説に熱狂してきたトランプ支持者と、民主主義の原理を大切にする人々と、アメリカ社会は分断されているようだ。「健全な民主政治を呼び戻すのは容易ではない」と毎日社説が書いた課題は、日本の言論状況にもそのまま当てはまる。トランプ信者がトランプ陣営の言い分をそのまま日本で拡散したからだ。

アメリカという民主主義体制の模範となるべき国で、どこまでトランプ流の独裁主義が通用するかという一つの「実験」ともなった。結論として、民主主義側が勝利したというのがわずかな望みとなった。

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