門田ノンフィクションの虚構 6

『疫病2020』というノンフィクションで、「ウイルス禍ノンフィクションの決定版」「この怪物がすべてを暴いた」という宣伝文句は過剰極まりない。ノンフィクション作品の実績をもつわけでもない出版社(産経)が、売り上げのみを狙ってひねり出したキャッチコピーであることが明白だ。

この中の第9章で「リアリストたちの反乱」というところがある。内容は、安倍政権をこれまで支持してきた言論人・文化人がこのコロナ問題については批判の声をあげた、我々は是々非々である、といった内容だ。それまで森友・加計についても「なんの問題もない」とうそぶいてきた著者自身が、そうした指摘を気にしたのか、実際は批判もやっているよとアリバイ作りをしているふうに見えなくもない。そこでリアリストと書かれたメンツを見てみよう。

高須克弥、百田尚樹、有本香、石平。

みればわかるとおり、歴史修正主義の雑誌に日常的に登場する面々である。例えば有本が編集して百田が執筆した『日本国紀』(幻冬舎)というベストセラーとなったいわくつきの書籍があるが、ここでは歴史的史実である南京虐殺について「客観的に見れば、『「南京大虐殺」はなかった』と考えるのが極めて自然」などと結論づけている。その根拠となっているのが、朝日新聞の本多勝一記者の報道などなのだから、世間知らずにもほどがある。この問題は被害者側はおろか、加害者側である旧日本軍兵士らの記録によっても、きちんと裏づけられている問題なのだ。報道など、なんの本質的根拠ですらない。

歴史的史実ではなく、自己の願望を優先して歴史を理解する態度を「反知性主義」という。平たくいえば、はてしない夢想主義者だ。

夢想主義者に、歴史を語る資格などそもそもなかろう。だが、門田隆将はこんなメンツを指して、「リアリスト」と強調してやまない。むしろそうでないことを内心で自覚している証左に私には見える。

一般に、「詐欺師」は自分が詐欺師であることを相手に悟らせない。まるで「正直者」のようにふるまって、最終的に相手をだます。それと同じ理屈で、彼らは自分たちが夢想主義者である事実を隠したいがために、自分たちを「リアリスト」と強調する。そうしたカラクリはよく弁えておいたほうがよい。

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