安倍・高市が主導する「歴史戦」のお粗末度

ノンフィクションやまとまった史実に関する書き手ならよくわかることだが、日本の都道府県または市町村は、過去にたいがい自分たちの歴史をまとめている。都道府県では「県史」と呼ばれ、市であれば「市史」だ。ちなみに私の故郷である佐賀県や市にも、その種の歴史書がまとめられている。現在、韓国との間で政治的な問題となっている「佐渡金山」だが、所在地である新潟県、さらにすでに現在は佐渡市に統合されているが過去の市町村である相川町もそれぞれ『新潟県史』(1988年)、『佐渡相川の歴史』(1995年)をまとめている(発刊年は該当巻)。

佐渡金山をめぐり、韓国は強制労働の現場だったと主張し、日本政府は外務大臣を含めそれらの事実を否定するという対立的な状況に陥っている。では地元自治体がまとめた過去の歴史はどのようになっているか。

過去に新潟県がまとめた『新潟県史』には、「強制連行された朝鮮人」と題するおよそ15ページの記述がある。その中に「朝鮮人強制連行と新潟県」という項目があり、冒頭、次のように記されている。

「昭和14年に始まった労務動員計画は、名称こそ『募集』『官斡旋』『徴用』と変化するものの、朝鮮人を強制的に連行した事実においては同質であった」(通史編8近代三、782ページ)

さらに賃金においては内外人平等がうたわれていたものの、職種別には「その悪平等が判然とする」と記述され、朝鮮人は危険できつい削岩作業や運搬作業に優先的に回され、日本人とは違う扱いをされていたことが指摘されている。

さらに問題は、当時の事業所が、彼らに「露骨な『劣等民族観』を隠そうともしなかった」ことだ。

上記は新潟県がまとめた『県史』の記述の一部にすぎない。一方、佐渡金山を抱えた旧相川町がまとめた歴史も似たようなものだが、地元だけにさらに具体性が増す。朝鮮人らが待遇改善を求めてストライキを起こした事実は『県史』でも記載されているが、『町史』のほうでは具体的に次のように記述される。

「当時の労務担当者によると『給与のほかに食費(当時1日50銭)や寝具代(1組月50銭)のほか、無給支給と思っていた地下足袋代などの作業必需品がすべて本人持ちだったほか、労務や勤労課職員の一部に極端な差別意識を持った人たちがかなりいた』などと、当時の朝鮮人労働者の争議の原因を回想している」(通史編近・現代、682ページ)

 これらは佐渡金山をめぐる基礎資料ともいうべきものであろうが、それらの資料において、強制労働は事実上存在し、仕事上において日本人とは異なる平等とはいえない待遇がなされ、さらに周囲の極端な差別意識のもとで働かされた事実がはっきりしてくる。

 ところが「歴史戦」を主張する安倍元首相、高市政調会長らは、「強制労働はなかった」などの歴史の改竄を行い、あるいはそれらに乗り、岸田首相の方針まで変えてしまった。政権与党の公明党も何ら主張しない。

 過去の歴史に謙虚さや誠実さをもたず、自分たちに都合のよいように解釈する。こんな姿勢で政治を行っていたら、この国はおかしくなるばかりと思われてならない。

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