作家による「神格化」のメリット

人間は感情的な動物である。理性よりも感情に流されることのほうが多いのではないか。そうした人間の習性を利用して売り上げ増を狙う作家にとっては、作品の主人公はしばしば神格化されがちだ。そのほうが読者は感情移入しやすく、固定読者もつきやすいからだ。一定の世代にとってわかりやすい例に、『空手バカ一代』という連載漫画がある。極真空手の創始者である大山倍達を主人公とするマンガだが、その内容は重要な部分の多くが「創作」にすぎなかった。同様に現在のノンフィクション界にも同様の手法を駆使する人物がいる。門田隆将はその典型であろう。同人が福島第1原発事故をめぐり吉田所長を取材したことは知られるが、同人の作品は同所長や関係者を過度に神格化しただけの作品といってよい。そうした手法は同人の他の作品においても随所に見られる。だが冷静に考えれば、作家による「神格化」の手法は、小説においては許されても、ノンフィクションにおいては禁じ手といってよい。なぜなら全体的に見れば正確な事実の提示ではなくなるからだ。裏にあるのは著者特有のイデオロギーであったり、売り上げ増を狙う私的な目的ということになる。

トラックバック・ピンバックはありません

ご自分のサイトからトラックバックを送ることができます。

現在コメントは受け付けていません。