中国の行動と論理を知る

相手が得たいのしれない存在であるとき、ひとは恐怖を感じやすい。だが相手が同じ喜怒哀楽をもった人間であり、自分と何らも変わることはなく、ただ外部環境が原因で得たいのしれない行動をとっていると理解できれば、物事の見方は大きく変わるだろう。より冷静に対処できるようになるということだ。近年の中国の行動は、まさにそのようなものとして日本社会では一般に受けとめられてきたのではないか。中国がなぜあれほどまでに威嚇的な行動を取り続けるのか。さらに日本だけでなく多くの周辺諸国に対しても同様だ。そうした疑念をわかりやすく読み解いたのが『中国の行動原理 国内潮流が決める国際関係』(益尾知佐子著、中公新書、2019年)である。著者は九州大学大学院で教鞭をとる40代の女性だ。

結論からいって、中国の対外外交は国内情勢が決定づける。さらに共産主義国家という特殊な形態がこの国の行動を完全に規定する。そうした背景を踏まえないでは、中国の行動は見えてはこない。中国の家族意識と日本のそれとの実は大きな違いがあることも詳しく説明される。同書でもっとも心に残った一節を引いておきたい。

「中国の対外行動がどのように決まるのかについては、日本ではあまり真剣に議論されてこなかった。近年、巷にはさまざまな『中国論』があふれている。だが、中国の『野心』『陰謀』が強調され、中国は自分の利益を拡大するためによからぬことを企んでいるという印象論で組み立てられていることが多い。このような視点から描かれる中国は、われわれと同じ人間が作る社会ではなく、あたかも妖怪が闊歩する不思議の国のようである。こうした話の作り方は、中国共産党の反日宣伝と質的に大差ない」(まえがき)

2019年11月の発刊だからすでに1年半前。中国関連情勢はめまぐるしく変化しているので、著者の新しい見解が待たれる。執筆者は佐賀県生まれ、福岡県育ち。私は逆の福岡県生まれ、佐賀県育ちなので、似たような生育環境にも個人的に親近感をもった。

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