首相官邸周辺を多少なりとも取材した経験のある記者なら、官房機密費がどのように使われてきたかは知っている。年間10億円以上の税金を官房長官が管理し、政権党の政策推進のために利用される。この支出は領収証を必要としない特別のお金であるのが大きな特徴だ。今回の1年生議員への飲食費、お土産代は総額で200万円近くにのぼるが、それらが首相個人の「ポケットマネー」から支出されたと本気で思っている記者は少ないだろう。いくら資金潤沢な政治家といえども、目的の明確でないこうした支出に3ケタの規模で軽々しく個人の懐を痛めて支払う政治家はいないというのが普通の見方と思えるからだ。仮にこの見立てが正しければ、問題の本質はいまの新聞紙面とは大きくずれてくる。現状では石破首相の「個人」の問題とみなされているが、実際は政権党として長年この国を率いてきた自民党内の「慣習」の問題ということになるからだ。そうなればもはやその内容が有権者目線からは受け入れられないというのがいまの政治状況ということだろう。残念ながらその部分に斬り込んだ新聞は、本日付在京6紙の中にはどこにも見られなかった。この国に真のジャーナリズムが存在しない証左といえるかもしれない。国民目線での再発防止を求めるには、何よりも「真実」が必要だ。記者はそのために存在することを、「月給」で仕事をしている記者たちは思い知るべきだ。