安倍晋三元首相が任期中に最も力を注いだ歴史修正(改竄)の対象は旧日本軍慰安婦の問題だった。かつての日本軍は南京大虐殺や731部隊による人体実験など後世において批難されるべき多くの非道な行為を行ったが、慰安婦問題においても戦争継続のために万単位の女性を徴用した事実が歴史的に清算されたとは到底いえない。これらの女性には日本のその道のプロの女性のほか、朝鮮半島からは多くの素人(未経験)女性が「騙されて」連行された。貞操観念がいまよりもずっと強かった当時、女性たちは運よく生き残ったとしても戦後、普通に結婚して子どもを産むというまともな女性としての生き方をすることは難しかった。戦時には都合よく日本人として兵隊の慰安に当てられながら、戦後になると国籍は一方的に剥奪され、何の手当もなされなかった。もちろん国策上の謝罪の言葉も93年まで皆無だった。自らの身体を犠牲にして旧日本軍を支えたこれらの女性たちの存在がなければ、日本軍が戦争を続けることは事実上不可能だったともいえる。つまりこの女性たちこそ、中国戦線を中心にした旧日本軍の戦争遂行の土台となった存在だった。だが戦後、これらの女性たちが靖國に祭られることはない。靖国神社が恣意的な「差別神社」にすぎないのはそうした理由からもはっきりいえる。