「事実の価値」が無になったかにみえる日本の言論状況

 本日付の産経新聞(社会面)にアパホテルの代表が顔写真付きで紹介されていた。それによると、代表は「今回のことはいずれ起こると想定していた。いいタイミングで(中国が)騒いでくれた。激励もいただいているし、むしろプラスが多い」と述べ、さらに「本当のことを向こう(中国)の方にも知ってもらう必要がある」と一昨日、大阪市内で開催された会合で述べたという。
 ここでアパホテル代表が述べている“本当のこと”とは、中国側などが主張してきた南京大虐殺について事実そのものを否定する代表自身の歴史観のことを示している。実際の被害を体験した現地住民や関係者からすればなにをかいわんやであろう。
 日本人にわかりやすく例えを使って説明すれば、アパホテル代表の言動は、アメリカの有名なホテル会社の社長が、日本の広島・長崎にかつてアメリカが原爆を投下して罪のない市民を多数殺害したという事実についてデマだと主張する自分の著書を客室内に置いて宣伝し、さらにそれが日本人旅行者によって問題視されると、その経営者は開き直って、“本当のこと”を日本人にわからせないといけないと弁明しているようなものである。それと同じくらいに≪滑稽な構図≫であることをよく理解する必要があるだろう。
 南京虐殺は国際的にも日本国内的にも歴史学的にすでに決着のついている事案であり、産経新聞の阿比留編集委員などが「政府は数億円かけても南京事件の科学的事実を検証しなければならない」との政治家の発言を引いて本日付の産経コラムを書いている姿も、アパホテルの代表とその≪心性≫においてさしたる違いは感じられない。
 彼らは単に真実を知ろうとしない、すでに明らかにされている事実さえも平然と無視する。そうした態度に終始する≪変な人間≫にすぎない。そうした≪変な人間≫が、2017年時点の日本では大手新聞社の論説委員にもなれるし、ホテル経営もできるということだ。
 これらの事態の責任は、直接的には日本政府の教育方針のあり方に求められるし、総体的には言論人にも大きな責任がある。
 阿比留編集委員たちの言い分は、無知なアメリカ人経営者らが、日本で原爆被害がほんとうに存在したかどうかについて、アメリカ政府は数億円かけて科学的事実を検証しなければならないと公に主張しているようなもので、日本人が外国人のそうした言動を目にすれば、≪呆れ≫を通り越した感情に陥ることは十分理解できるはずだ。

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