歴史をパロディ化した本

今の日本社会はウソが平気で垂れ流され、それが商売化される時代だ。何が真実で何が虚偽か、見分けがつかなくなった時代ともいえる。こうした風潮は私見では21世紀に入って日本社会ではかなり顕著になった。最近文庫版で再刊された『日本国紀』なる本もその典型である。歴史の事実をおもしろおかしく改竄し、日本人が読めば胸がすかっとするらしい。すかっとさせて本を売るのが目的なので、要するに目的は金儲けだ。その結果犠牲にされるのが歴史の「真実」である。そのため、この本を真摯に歴史を学ぶ目的で読むのは明らかに間違っている。もともと本を売り出す際に、これはパロディです、と謳ってあれば、読者も心構えして読むというものだろうが、そうはなっておらず、羊頭狗肉の典型の類だ。

例えば近現代史でいえば、日本が昭和で道を誤る最初のきっかけになったとされる昭和3年の張作霖爆殺事件について、歴史の真実は関東軍が計画的に鉄路を爆破して殺害したものだが、この本ではそのようには描かれない。歴史学会では見向きもされないようなソ連陰謀説を展開する。さらに日中戦争における南京虐殺事件についても同様である。日本の軍隊が品行方正であったかのように説明され、民間人を含む大量虐殺は虚偽であるかのように説明される。これも歴史の事実に明らかに反する。要するに旧日本軍が非道な悪事を行った事実は、現代日本人にとって快くないから、改竄するのだ。著者は自分で取材も、調査もせず、一片の適当な文書を寄せ集めて、自在に歴史を構築するだけ。人間としてどこまでも不届きな者にしかできない所業であり、執筆者の周辺を見れば、「同類」たちが群れていることは明らかだ。現代は、まがいもの(ニセモノ)が勝者のように跋扈し、我が物顔で歩く時代である。こうした風潮を生んだのは、明らかにこの10数年来の政治である。

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