ベストセラー『疫病2020』のお粗末度

ノンフィクション作家の門田隆将こと門脇護が執筆した『疫病2020』という書籍が10万部を突破しているそうだ。本人は「30万部をめざす」と豪語しているようだが、犬の遠吠えだろう。それにしても、この本を熟読した読者は、最後の部分で幻滅を感じる人が多いのではないか。なぜならそこには事実ではなく、フィクションが書いてあるからだ。しかもそれが結論になっている。

この著者は最後の章で、日本での新型コロナウイルスによる死亡者数が欧米に比べて格段に少ないことを紹介し、それを称え、さらに日本人の他人を思いやる心がそれをもたらした旨「推測」している。

だがすでに指摘したように、これは二重の「フィクション」にすぎない。まず日本における死亡者の割合は、欧米に比べれば格段に少ないのは事実だが、同じアジア圏で見ると、決して少ないわけではないからだ。むしろ日本は多いほうに位置する。アジアでは死者がもっと少ない国は多数あるからだ。要するに、この著者は「日本はすごい!」という安易な結論に無理やり結び付けるために、意図的な比較の仕方をしていることが明白だ。一種のペテン手法ともいえる。

さらに日本で死亡率が低い理由について、日本人の他人を思いやる心の強さを挙げているが、ここに至っては、科学的な裏付けは皆無であり、この書物を根本的に「駄作」にした要因といえよう。事実の上での確たるエビデンスがどこにも存在しないからだ。

要するにこんな「フィクション」もどきの自称ノンフィクションが10万部売れたという「社会現象」のほうが、私には現状の日本社会を占ううえで貴重な材料になると思われる。

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