18年前の悪夢の参院選挙が脳裏をよぎった与党議員もいたにちがいない。2007年、第1次安倍政権で行われた最初で最後の国政選挙(参院選)で自公は歴史的大敗を喫し、参議院で自公は過半数に17議席足りない「ねじれ状態」を生み出した。つまり、後の政権交代の流れを決定づけた選挙のことである。このとき問題となったのは「年金未納問題」であり、今回は高額療養費の引き上げ問題だ。報道を見る限り、石破首相には厚労省幹部から「患者団体は引き上げの凍結を求めていない」(日経)といった誤った報告が入れられており、さらに「開始時期まで白紙になれば、『制度を維持するための見直し自体が今後できなくなる』(政権幹部)との懸念が背景にあった」(毎日)ため、「財務省と厚労省幹部が譲歩しないよう首相に念を押した」(同)背景もあったようだ。さらに公明党には「立民も納得していると財務省や厚生労働省に聞いていたのに話が違う」(東京)と後で不満を露わにした幹部もいたようだから、これ以上の予算再修正をしたくない財務省と、医療制度改革に余計な波風を立てたくない厚労省による与党幹部らへの説得があったことは明らかだ。だが世論は違った。徐々にこの問題が拡大し、無視できないレベルになると、政治判断のタイミングが、衆院通過の時期と重なったことが仇となった。背景には石破首相の優柔不断があったことも事実だろうが、政治家としての“先を見通す力”が与党に問われた局面だったと映る。もともと首相自身も昨年末の時点からこの問題で「不安を抱えていた」(東京)との論評もあり、役所の主張に反する形で危機感を抱く政治家がいて、未然に防ぐ行動があってもおかしくなかったからだ。その可能性があったのは厚労省を担当する与党政治家、両党幹部らということになる。こればかりは政策能力だけでなく、政局勘を求められる問題にほかならない。高額療養費の問題についてはこのコラムでは真剣に批判してこなかった。石破内閣を支えたい立場としては、お詫び申し上げる。