「煽情」雑誌の時代

昨日付の新聞に掲載された雑誌広告をみて改めて実感したことだが、この国のメディアは事実的根拠をもとにできるだけ公正な立場、抑制された立場で何かを主張するというより、もはや情に訴え、情を扇動するための「煽情雑誌」の様相を呈しているように思えてならない。その推進役となっているのが、右派論壇雑誌の3誌である。

昨日掲載された『正論』(9月号)の広告では、安倍首相の提灯持ちジャーナリストの櫻井よしこが「トランプに進むべき道を示せ」と題するメーン記事で、「日本の真の生き残りのために防衛費の増額と、一日も早い憲法改正を死にもの狂いで実現すべきときだ」といつもながらの高慢ちきな筆致で主張している。

さらに目を引くのは、「戦後リベラル砦の三悪人」と題して各識者がそれぞれ3人を挙げて、論評している点だ。識者があげる3人には、有吉佐和子のような小説家もいれば、半藤一利のような歴史家、お決まりの筑紫哲也、本多勝一などのジャーナリスト、土井たか子、河野洋平といった政治家らがあげられている。

自分たちは正しく、相手は間違っている。そのために相手を「悪人」とレッテル貼りして、雑誌で大々的に宣伝する。これを情緒的プロパガンダと呼ばずしてなんと呼ぼうか。

同じことは、『WiLL』『Hanada』についてもいえる。『WiLL』の最新号では、「拉致問題 朝日の検証記事を読むとムカつく」という大見出し記事。『Hanada』も「朝日も野党も要らない!」との大特集だ。

自分と異なる意見には、「ムカつく」「要らない」などの言葉を投げつける。もはや事実的根拠をもとに一定の主張を行うレベルではなく、読み手の感情を一方的に扇動しているだけの「煽情雑誌」というほかない。

こうした情緒的偏向を意図した雑誌ばかりが売れ、新聞広告で大々的に国民に周知されるような時代は、先の戦中以来、これまでなかったのではなかろうか。

間違いなく、これは安倍政権と共につくられた、社会的気風である。

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