| オンラインリポート | コラム日記 | 外国人問題関連 | 北朝鮮・脱北者関連 | ジャーナリズム関連 | プロフィル/著書 | 裁判記録 | お問い合わせ | HOME |


 
人権・ジャーナリズム関連 執筆記事 2

【『月刊潮』2004年4月号】

「新潮ジャーナリズム」の罪と罰
「熊本保険金疑惑報道」――
  “虚偽報道”で殺人犯に!『週刊新潮』に990万円の賠償命令


『FOCUS』に続いた『週刊新潮』
1993年から2001年まで8年以上にわたって『週刊新潮』編集長を務めた直接責任者の松田宏(63歳、現取締役)はこの判決をどのように受けとめたのだろうか。
 1月29日、場所は福岡高裁505号法廷。新潮社の代理人二人と医療法人側の代理人一人が席につくと、湯地紘一郎裁判長が主文を読む。「本件各控訴および各附帯控訴をいずれも棄却する」。
 つまり、最終の実質審理となる二審も一審と同じく、新潮社の“デマ”を厳しく「断罪」する結果となった。 「金銭欲、色欲、権力欲を衝く」がもともとのコンセプトの“強姦新潮”の異名をもつ同誌は、訴訟沙汰の多さでもこれまで注目されてきた。今年に入って早くも2度目の敗訴判決である。
 約2年前に出た熊本地裁の一審判決では、被告の新潮社(代表取締役・佐藤隆信)および『週刊新潮』編集長の松田宏(当時)に対し、990万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を命じていた。
 対象となったのは2000年9月7日号の「フォーカススクープ『熊本70億円保険金』疑惑の追跡」と題する3ページの記事。
 同年5月に熊本県天草町で発生した自動車転落事故をめぐり、“保険金殺人疑惑”として扱った同種の記事は、同じ新潮社の雑誌『FOCUS』誌上で7月から毎週のように掲載されていたが、その“スクープ”(結果的には誤報)に便乗した企画だった。死亡したのは熊本市に病院をもつ医療法人の職員4人である。
 当時、埼玉県本庄市の保険金殺人事件が話題を呼んだころでもあり、世間は“保険金殺人”という言葉に敏感に反応しやすかった。
 結論からいえば、『FOCUS』で12回にわたって続けられたキャンペーンはその後、名誉毀損の損害賠償額としては最高記録ともなる1980万円の支払いを負わされることになった。だが、“強姦新潮”の異名をもつ『週刊新潮』も、わずか一回の掲載でその半額にあたる990万円の支払いを命じられたのである。しかも謝罪広告つきである。
 結論からいえば、この原稿を執筆した担当デスク自身、この記事が“真実”であるとの確証は何ら持ちえていなかった。証人尋問記録によると、次のような具合である。

代理人 取材の前の話ですけれども、この週刊新潮で何を報道しようと考えたんですか。
デスク 我々は、その交通事故の不自然な点、それから、なぜその巨額な保険金が掛かっていたのか、それを検証していこうということを考え、更に、その事故、保険金の背景にあるその病院の人間関係はどうなっているのかというものを書こうと思いました。
代理人 それらの疑問、あるいは事故の不可解さは取材の結果、解明できましたか。(趣旨)
デスク これは、結果的には一つの結論を解明するには至りませんでした。

  このように『週刊新潮』は取材で何ら「解明できなかった」にもかかわらず、この事故が、保険金殺人事件であり、その背景に医療法人理事長と転落死した看護師らの男女関係があったかのように3ページにわたって書き連ねたのである。
 この虚偽報道がいかに杜撰な取材を通してなされたものだったか。事実を知れば、多くの読者が同誌の取材態度に疑問を呈することになろう。
 もともと『週刊新潮』の取材体制は、裁判記録などによると、全体編集会議が毎週金曜日に開かれる。ここで翌週発売号のラインナップの大枠が決まり、新潮記者らは取材に突入する。そうして記者が取材したデータ原稿をもとに、アンカーのデスクが月曜深夜から執筆を始め、火曜日の夕方までに校了を終える。
 取材状況によっては企画を見送ることもあるというが、取材期間は金曜から月曜までの正味4日間。しかも日曜午後の時点で、内容に則して各記事のタイトルが「最終決定」されるというのだから、実質的な取材はわずか2、3日程度となる。
 一つのテーマに数人の取材記者が投入されるとしても、この取材日程の窮屈さは、同誌の“事実”を重んじない傾向に一層拍車をかけているようだ。

わずか3日間の現地取材
 同誌編集部がこの事件を企画決定したのは、転落事故から約3カ月すぎ、『FOCUS』がすでにキャンペーン記事を五回にわたり掲載していた2000年8月25日(金)のこと。この日、午後1時の編集会議で取材に取りかかることが決定され、編集長の松田は、担当デスクを指名。担当デスクは、事件取材に強いK、Sを取材に当てることを決めた。
 Kは早大政経学部卒業後、入社3年目の24歳。一方、Sは畑違いの業界から転職したばかりの25歳。記者歴はわずか3カ月だった。(いずれも当時) 編集会議を終えたデスク以下3人は、その足で同じ社内のFOCUS編集部に出向き、すでに先行取材を進めていた担当記者らから事件のレクチャーを受けた。Kはこのとき、FOCUS記者から医療法人の看護師一人を紹介されている。 ひと通りのレクチャーが終わり、KとSはその日、熊本へ飛んだ。Kが病院関係者から聞き取りを行い、Sが事故現場とその周辺を取材するという一応の役割分担をそこで決めた。
 翌26日(土)、記者らは早朝から2人で、熊本市から車で3時間の距離にある事故現場を「訪問」した後、担当の取材に分かれた。 Kは市内に戻り、現職の同病院看護師など3人を夕刻からカラオケボックスで取材した。一方、Sは現場周辺で遺体引き揚げにかかわった消防関係者や検視に立ち会った医師などから聞き取り取材を行った。
 27日(日)、2人は医療法人が経営する病院を訪問。理事長に取材依頼したが断られ、看護部長から「取材の応対は顧問弁護士にお願いします」との伝言を受けた。
 まだ医療法人側の取材もしておらず、コメントさえ得ていないこの日午後の段階で、編集部では「フォーカススクープ『熊本70億円保険金』疑惑の追跡」のタイトルを正式決定したことになる。タイトルをつける役目は、編集長の松田宏だった

締切間際に取材依頼
 取材の最終日となる28日(月)の午後2時すぎ、K記者は医療法人の顧問弁護士あて、質問項目を記したファクスを送信した。内容は、記事にすることになったので以下のことを教えてほしいと書き、「なお締め切りが本日になっておりますので、今日中か、明日の午前中までにご回答願います」という、相手からすれば失礼千万な依頼状だった。
 同日、FOCUS記事と同様の名誉毀損記事が発売部数70万部の『週刊新潮』に掲載されることを懸念した顧問弁護士は、週刊新潮編集長あて、じゅうぶんな取材なしに記事掲載した場合、「重大な法的責任が発生する」旨の《通告書》を内容証明付郵便で急送。さらに翌29日(火)には、詳細な回答書を、K記者あてにファクス送信してもいる。
 「週刊新潮K記者殿」で始まる15ページの《回答書》には冒頭、次のように記されている。「もっとも重要な証人である理事長に締切り当日に申し込みし、顧問弁護士が受けるといっても時間がないとして、取材にも来ようとしない。最初から何の取材もなく、憶測記事を書くつもりと受けざるをえない」 このあと、事故の状況など保険金殺人事件などでは決してないことや自殺ではないことなどを具体的事実をもとに詳述し、末尾で「フォーカスの後追い記事を載せるのであれば、会社ぐるみの故意の名誉毀損行為としか考えられず、役員の監督責任の立証もきわめて容易になるでしょう」と丁寧に警告していた。
 だがこの日は、編集部にとってはすでに校了日。つまり原稿は出来てしまっており、あとは校正で書き加えるくらいしか時間は残されていない段階である。
 結果的に新潮は、記事の最後部分に顧問弁護士の《回答書》を“つまみ食い”し、一般読者からすれば、事件はあくまで保険金殺人事件と受け取れるような記事を掲載した。
 当初の企画方針は、取材過程で得られた結果によって変わることなどなかったのである。

人の不幸を金もうけに変える
 尋問記録を読むと、担当記者であるKとSの証言も出てくる。転落事故の現場を取材したSへの尋問は次のようなものだった。

 代理人 端的に聞きますが、あなたは本件事件が保険金殺人であると思っていますか。
  記者S 仮説の一つとしては考えられると。
  代理人 仮説ではなくて、可能性があると考えているのですか。
  記者S それは取材によってあまり分からなかったのです。
  代理人 可能性がなければ書かないでしょう。
  記者S ……

 尋問でSは正直に自分の心境を語っているが、現場の取材記者が保険金殺人との確証がもてなくとも「活字」にするのが『週刊新潮』の取材システムである。 K記者の尋問記録にもそれが顕著に現れている。Kは被害者らとの男女関係などについて、「証拠はありません」「根拠はない」などと連発。ちゃんとした取材をしたと思っていますか、との問いに対しては、「思っています」と強弁している。だが、実際は、看護師らの社員証すら確認していなかった。
 一方、被害者の遺族でありながら、逆に保険金殺人犯という加害者にデッチ上げられた医療法人理事長は、裁判所に提出した陳述書の中で悲憤を次のように吐露していた。
 「私は、今回の一連の報道の前は、マスコミというのはきちんとした取材をした上で報道するのだろうという漠然とした信頼感のようなものがありましたが、週刊新潮が、裁判という真実を追究する場においてすら、何の証拠も出すことができないまま、嘘に嘘を塗り重ねるような見苦しい弁解を繰り返しているのを見て、マスコミというのは、金もうけのためになら、何の証拠もなく、どんなことでも記事にするのだということを痛感いたしました」
 「最愛の妻を亡くした者に対して、妻殺しの汚名を着せることが、どれだけその人を傷つけるのか、週刊新潮は分かっているのでしょうか」 「遺族の悲しみを土足で踏みにじった上、殺人者の汚名を着せて、人の不幸を自分たちの金もうけに変える週刊新潮の編集者や記者に、人間の心があるとは到底思えません」
 その後、この事件を扱った多くの“虚報”が裁判所やBRC(放送と人権等権利に関する委員会)によって断罪され、保険金の支払いを拒絶した保険会社も敗訴し続けた。
 もともと一連の疑惑視報道は、一部保険会社が内部情報をFOCUS記者にリークしたことによって始まったものだったが、医療法人理事長は、証人尋問で『FOCUS』と『週刊新潮』の関係を聞かれ、「裏では全く同根的なものだと思っています」と証言している。
 今回の判決で「断罪」された直接の責任者であり、当時FOCUS担当役員でもあった松田宏に電話でコメントを求めてみた。松田は「潮には一切コメントは差し上げません」と最初に述べたあと、今後の身の処し方について、「知りません、そういうことは私に聞いてもわかりません」と返答。判決の感想を求めると、「知りません。ノーコメント」とにべもなかった。
 もともと同誌の育ての親であった幹部は、「『週刊新潮』も文芸だ。文芸に正義も真実もない」と豪語した。『週刊新潮』にとってはいまも、真実かどうかということより、文芸としての面白さのほうが重要らしい。具体的にはカネ、女、事件の3つだが、今回の記事は、まさにそれらを組み合わせた“虚報”の典型であった。だが、こうした社風を体現する同社の経営陣に反省を期待しても、所詮は“徒労”というものだろう。 最終責任は、当然ながら、社長の佐藤隆信にあることだけは間違いない。(文中敬称略)

 
    | ページトップへ |