日記

2010/03/14(Sun)
堕ちた元委員長  32  火を噴いた脱税事件=「明電工疑惑」
 1988年、巨額脱税事件として社会を騒がせた「明電工事件」。事件当時の同社相談役であり、実質的にはオーナーであった中瀬古功氏が20億円近い脱税容疑で起訴された。この事件で、政治家と株をめぐる疑惑が噴出し、政財界を揺るがした。
 中瀬古氏は、1964(昭和39)年、実兄らとともに明電工を設立。当初は電気工事請負業を細々と続けていた会社だったが、81(昭和56)年に発明した節電装置が話題を呼び、中小企業の経営者らから「節電教祖」とまで仰がれるようになる。同氏は事業で成功を収めると、株式仕手集団「六韜(りくとう)会」の総帥など徐々に別の顔を持ち始める。六韜会は、節電装置を取り付けた経営者ら約300人が中心となっていた。
 中瀬古が巨額脱税事件において株売買で関与したとみられる銘柄は、吉田工務店(東京都北区、店頭銘柄)、カロリナ(富山県東砺波郡、東証・大証2部上場)、大木建設(東京都千代田区、東証2部上場)など、有名とはいえない中規模の会社だった。このうち、84(昭和50)年12月と86(昭和61)年2月の2回にわたり吉田工務店が、85(昭和60)年11月にはカロリナが、第三者割当増資を実施していた。 
 第三者割当増資とは、発行会社と縁故関係があるなどの特別関係にある会社や役員・従業員などに対し引受権を与えて新株を発行することで、通常、収益力が低く、株価が低いために公募増資ができない会社の資金調達のために行われるほか、取引先との関係強化や新たな提携による活性化などを目的として行われる場合が多い。いわば縁故関係を利用した増資と考えるとわかりやすい。
 このとき、吉田工務店とカロリナの第三者割当増資を引き受けたのが、明電工のほか同グループの一つ、石田省エネルギー研究所や明電工が開発した節電装置のユーザーが集まる「六韜会」のメンバーらであったことが問題となった。増資によって吉田工務店やカロリナの株価は上がる。これに目を付けた投資家たちは後追いし、株価は急騰した。仕手戦の始まりだった。
 このような大がかりな株式売買による巨額の売却益を脱税した容疑で、中瀬古氏は88(昭和63)年6月、東京地検特捜部の手によって逮捕された。脱税総額は約21億円。株の個人脱税としては、史上3番目の規模の巨額脱税容疑といわれた。
 翌年5月9日、東京地裁で懲役3年・罰金4億円の実刑判決が言い渡される。検察・被告人ともに控訴しなかったため、一審判決は同月23日に確定し、中瀬古氏は栃木県の黒羽刑務所に収監された。政治家・矢野絢也は、その中瀬古氏と“金儲け”をめぐって密接な関係を持っていた。