2種類の狂言訴訟

 民事裁判を利用して気に入らない相手に嫌がらせをしかける。最近では「スラップ訴訟」などという定義もなされているようだが、20年前の信平狂言訴訟は、「なかった」事件を「あった」ものと≪作出≫して、そうした前提のもとに損害賠償を求めるタイプの虚偽訴訟だった。一方で、実際は「あった」事件にもかかわらず、「なかった」ものとして、それを前提に損害賠償を求める“もう一つの狂言訴訟”も存在する。わかりやすい例でいえば、日蓮正宗前法主の阿部日顕が若いころ米国シアトルで起こした売春婦とのトラブル事件がある。
 この件が初めて報道されたのは92年6月。阿部側が名誉棄損で提訴したのは93年12月のことだった。この裁判は一審判決に至るまでに6年以上の歳月を要したが、2000年3月の東京地裁判決では、「真実性」が認定され、高裁で和解終結している。
 地裁の審理では、阿部本人が3回も出廷して本人尋問にさらされ、さらにシアトル現地の警察署で阿部の取り調べに関わった米国人の元警察官や、現地で阿部の世話をした日本人女性などが出廷し、具体的な証言を行った。それらを受けて東京地裁判決では、「本件事件の存在を否定する旨の阿部の供述は、重要な点において、その内容が変遷しており、その変遷には何ら合理的な理由が認められず、また、供述内容も曖昧で不自然かつ不合理な点が多いというべき」と、厳しく弾劾している。
 この裁判は、一般には≪シアトル事件訴訟≫などと呼ばれてきたが、本質的には、≪阿部日顕による狂言訴訟≫というべき性質のものだろう。先の信平狂言訴訟の裏で日蓮正宗関係者が暗躍していた事実は既報のとおりだが、その背景には、このシアトル訴訟に対する意趣返しの側面があったことも、今となっては明白な事柄となっている。

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